なかった。
大統領も核が通じるかどうかを意識では知っているはずだった。
しかし悪魔によって誘惑された彼らの判断は鈍っていた。と言うより、単純におかしくなっていたのだ。合理性が徐々に失われつつあった。
元々攻撃的な思考をする人間は悪魔にとっても好都合だった。大統領も操られているわけではない。揺らいでいるような感じだろうか?誘惑はされている。しかし自分の意思でもその判断をしているのだ。その人の自由意思と誘惑との境界線は曖昧な状態だ。
水爆が基地から発射された。数は20発。それは大気圏を一旦出てから目標に落ちてゆく。天使は必死でカイトたちに伝えようとしていたが、全く通じなかった。悪魔の側も正念場なのだ。
「・・・まずいですね・・カイトは大丈夫でもヨシヒロが・・・」ガブリエルは言った
「・・・とにかく伝えなければ・・・ぎりぎりでもカイトなら間に合うかもしれない・・・」ミカエルたちは必死で通信を試みた。
「・・・やつらの力がすごい・・・。通信されてしまうかもしれません・・・」かたやリリスが弱音を吐いた。
「・・力を振り絞れ!・・お前たちもだ!・・・」リリスだけではなく他の悪霊も彷徨うものに協力していた。彼らは天使たちに負けたくない一心でまとまっているのだ。
そして、水爆がヨシヒロの別荘の上空で爆発した。20発水爆が狭い範囲で同時に爆発したのだ。
すべてを焼き尽くしヨシヒロの別荘だけではなく軽井沢駅も、半径数十キロにわたって破壊された。
「・・・間に合わなかったか・・・」ミカエルが言った。
「ぎゃーーーー!!」カイトはのたうちまわっていた。いくら彼でも水爆20発では皮膚は焼かれズタズタになっていた。それでも死ぬことができず、痛みに耐えかね叫ぶしかない。
「ぎっぎっ・・」叫びの合間に絞り出すような声。
「・・・カイト・・着実に修復はされている・・その苦しみはそう長くは続かない・・」
「あーーーーー!!」うずくまってただ痛みをこらえる。しかし急速に傷は治っていく。
「ヨシヒロ・・は・・はあっ・・・ダメ・・・だったんだろ?」カイトは言った
「・・・すまない・・彼は蒸発した。・・・」
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